1. 製鉄スラグを基材とした光触媒複合体の合成と水素生成への応用

 「鉄は国家なり」といわれるように、鉄鋼業はその国を支える基盤的産業ですが、我が国ではCO2排出量最大業種として大きな課題を抱えています。鉄鋼プロセスから一定量副生される鉄鋼スラグは現在ほとんど土木材料として利用されているものの機能性材料への転換はほとんど見られません。ここでは、鉄鋼スラグをカーボンニュートラルに積極的に貢献する環境材料に再生することにより地球環境に対する付加価値を高めた再生をめざしています。Caを主要成分とする結晶から、可視光応答型光触媒複合体を合成、諸性質の特性化、水素生成光触媒反応への応用、光励起機構の考察を行っています。

2. 粘土鉱物との光触媒複合体中のFe局在性による光触媒活性への影響

粘土鉱物は厚さオングストロームスケールの2次元シートが、お菓子のミルフィーユのように積層された構造をもっています。この積層構造を支えているのは層間にある陽イオンです。環境にありふれた鉄イオンはその代表的つなぎ役です。光化学応答性の点では、鉄イオンをもたない粘土鉱物は光を当てても電子励起が起きない不導体ですが、これにTiO2のような光触媒を複合化させると、複合体の中の鉄原子の所在によって、光触媒としての活性に差があることがわかってきました。このメカニズムは大変興味深く、反応を主導するラジカル活性種の同定などを用いて解明していきます。
地球表層環境に普遍的な粘土鉱物とTiO2をうまく組み合わせると、太陽光照射の下で、汚染有機物の分解、糖から有機酸への転換、Cr(VI)の還元などの水環境浄化やカーボンサイクルを促進する反応に応用できます。

3. ウズベキスタンの銅精錬スラグをもとにした光触媒複合体

当研究室では、中央アジアの銅資源国ウズベキスタンを相手国として、 JST SATREPS プロジェクトを推進しています。日照率の高いウズベキスタンでのエネルギー生産に貢献すべく、銅精錬スラグより光触媒複合体の合成、水素生成への応用に取り組んでいます。ウズベキスタンの銅精錬プロセスでは、精錬スラグの浮選により、Cu15-18%を含む二次精鉱が得られるため、これをもとにしてTiO2と接合面をもつ光触媒複合体を合成しています。銅精錬スラグには、微量ながら貴金属も含まれているため、水素生成光触媒に必要な助触媒の供給源としても期待されます。

4. 一次および二次資源からの貴金属回収のためのバイオハイドロメタラジー

 金は希少金属であり、貨幣的価値を有する特別な金属で、他に代替できない応用分野もあります。それだけに、非資源国の我が国にとって金の安定供給のためには、資源国と協同して、未利用金鉱石資源(一次資源)の開発技術を磨くこと、都市鉱山(二次資源)からの金の選択的回収は、いずれも重要課題であります。炭素質金鉱石は金鉱石の数分の1程度賦存すると推定されますが、抽出段階で得られる金シアン錯体が炭素質物質に吸着しやすく、回収損失が30~70%にのぼるため、ビジネスリスクが大きく、ほとんどの鉱山では開発対象外として放置されています。当研究室では、バイオミネラルプロセッシングによる鉱石の前処理法、低環境負荷試薬による抽出法、さらに抽出した金(Au)錯体の回収法について研究をすすめています。

 天然金鉱石の金含有量は1トン当たり数g~数10gで、金粒子を含む鉱物としては硫化物が多いのですが(図参照)、この抽出法の特徴の理解が深まることにより、金含有量がおよそ3桁高い都市鉱山からの金の選択回収にも応用させようとしています。

5. バイオテクノロジーによるスクラップ鉄からの非鉄金属資源の分離回収

 亜鉛(Zn)は鉄(Fe)の防食材としてさまざまな材料に用いられます。たとえば、亜鉛コーティングされたステンレス管が水道管として用いられていましたが、これらはすでに銅管に置き換わり、大量のスクラップ鉄となっています。

 このスクラップ鉄は電気炉で溶融され、再製鉄となりますが、この電気集塵機にはZnとFeに富む混合ダストが大量に集まります。このダストからFeの紛れ込みの少ない高純度Znを回収するために、鉄酸化菌をはじめとする好酸性菌によるバイオハイドロメタラジーの応用が期待されています。